雪の息子の怒り
気候変動に揺さぶられる東アフリカの民族

The son of the snow is angry
New Internationalist No.378
May 2005 p6

 

最近の予測では、最も気候変動の影響を受ける大陸としてアフリカ大陸の名前が挙がっている。アフリカ大陸から排出される温室効果ガスがわずかなことを考えると、これはまったく皮肉な話だ。ウガンダとコンゴ民主共和国にまたがるルウェンゾリ山地で生活するバコンジョ民族。気候の変化は、実質的な影響だけでなく、文化面でも同様に深刻な影響をこの民族に及ぼしている。

ルウェンゾリ山地は、周りを囲む東アフリカの平原から4千メートルほど高くそびえ立っている。この山地は、寒気と豊富な降水量のおかげで昔から広大な雪原があり、それがナイル川源流となる高山の川、湖、湿地に雪解け水を供給している。

バコンジョ民族は、ルウェンゾリ山地の頂上付近にある氷河のおかげで、近隣の民族による奴隷化やマラリアといった熱帯の病を何世紀にもわたり免れてきた。赤道上に位置するこの寒くて降水量に恵まれためずらしい地域は、世界遺産に登録されている。ここにはジャイアント・ヒースなど見事な植物が育ち、伝統薬の宝庫となっている。高山の川は、下流域の農地に水を供給するとともに、水力発電をも支えている。

ところが、氷河の面積は20世紀の間に84%も縮小した。この傾向が続けば、氷河は20年以内に消滅してしまう。

これまでになかったような長期間に及ぶ干ばつや降水量減少の結果、作物生産量が減少し、バコンジョ民族は散発的な飢饉(ききん)に苦しんでいるとも伝えられる。さらに、高地でもマラリアに感染するようになったが、このことはマラリアを媒介する蚊が生息できるほどに気温が上昇したことを示している。

氷河後退の原因の一つとして、東部アフリカの降水量が19世紀後半に急激に減少したことが挙げられる。しかし、低地の気象観測データは、20世紀後半からの温暖化傾向をはっきりと示している。つまり、バコンジョ民族が直面している環境問題は、気候変動の結果なのである。

ただ、こうした物質的な損失が、バコンジョ文化とアイデンティティにどのように影響していくのかははっきりしない。バコンジョの宇宙論は、雪であるナズルル(Nzururu)を作った創造者ニャムハンガ(Nyamuhanga)から始まる。語り継がれている話では、ナズルルは人間の生命、その継続と幸福をつかさどる神キタサンバ(Kitasamba)とニャビブヤ(Nyabibuya)の父と言われている。氷河で覆われた山の峰に住むキタサンバは、自然環境とバコンジョ民族の生命を支配する巨大な力である。この土地では、バコンジョ民族が伝統的な習慣を顧みなかったことにキタサンバが激怒したため氷河の後退が起きたと考えられている。また人々は、急激な人口増加による森林破壊もその原因の一つだと信じている。

現在では、森林破壊の阻止とバコンジョ君主の復権が強く望まれている。それはつまり、伝統的なしきたりを再び活性化してキタサンバを満足させるものだ。しかしながら、バコンジョがその望みを実現させ、世界も京都議定書の下で気候変動対策に取り組んだとしても、氷河の後退を食い止め、豊富な雪を取り戻せるとは思えない。

リチャード・テーラー、ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジ

 

訳: 松並敦子

 




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