EUは開発途上国に優しいの?

Bad cop, worse cop
New Internationalist No.394
October 2006 p11

 

ヨーロッパ諸国は開発途上国の支援をよくやっていると言われているが、ジョン・ヒラリーは異論を唱える。

我々ヨーロッパ人は、どうしても米国を見下してしまうところがある。第一に、米国の大統領は明らかに普通ではない。そして第二に、米国の有権者たちは彼に2期目を任せてしまった。他国を実際に侵略しなくてもブッシュ・チームは、明らかに自分たちのために新自由主義(ネオリベラル)経済というブランドを売り込んでいる(ネオリベラル派の中には失望している者たちもいる)。率直に言って、優越感を禁じ得ない……ヨーロッパの方がましではないか!

しかし、EU(欧州連合)が開発途上国にきちんと対応していない現状では、ヨーロッパ人が米国を見下すことなどできるのだろうか。WTO(世界貿易機関)においてEUは、米国を「最も強引で自分本位の交渉者」として交渉に挑んできた。だがEUは、開発途上国の多くの人々を貧しくしているEUの農業補助金政策に手をつけないだけでなく、現在は自己利益のために開発途上国のサービス産業と工業製品に対する攻撃を始めている。WTOドーハ・ラウンド交渉(現在は中断)開始当初、EUは工業製品の貿易交渉に高い優先順位を置き、EUが代表する多国籍企業のために、「市場アクセスの問題で大幅な進展を達成する」ようこの交渉の場を利用するという意志を明言していた。現在広く一般的に受け入れられている見方は、EUが明言していたような目標は開発途上国の小規模製造者の利益を損なうことになり、開発途上国にドーハ・ラウンド交渉(「開発ラウンド」と呼ばれている)で約束されてきた恩恵とは大幅に異なるというものである。EUが求めている開発途上国の市場開放は、まだ初期段階にある開発途上国の国内産業を世界でも強力な多国籍企業の低価格製品攻撃にさらすことになる。その結果は、国内産業の崩壊、大量の失業者、貧困の悪化など悲惨なものになる。

しかしEUはそんなことを気にもかけずに交渉を進めていた。開発途上国側は、国内産業の保護と独自の国内基盤の育成につなげる考えもあり、柔軟性と政策の余地を認めるようにとの申し立てを行ったが、EUの通商担当で強硬なピーター・マンデルソン委員はそれを拒み、このドーハ・ラウンドの中でも最も厳しい市場開放条件を突きつけてきた。EUの交渉団は、開発途上国の交渉代表者たちが市場開放を妨害しているとして公然と非難し、この交渉がEUの思惑通りに進まなければ他の交渉の進展が妨げられることになると脅しをかけてきた。果たして、こんな状況でも開発途上国をよく支援をしていると言えるのだろうか。

同様の攻撃はサービス分野での交渉にも見られる。EUはこのドーハ・ラウンドで、開発途上国に対して幅広い分野で自由化を求めた。その中には、現在72カ国で実施されている後戻り不可能な悪評高い水道事業の自由化も含まれる。これはGATS(サービス貿易に関する一般協定)に基づく政策である。これまで長い間開発途上国は、EU交渉団による極めて強い圧力に不満を漏らしていた。EU交渉団のやり方は、二国間交渉を非公開で行うというものだ。ヨーロッパの交渉者たちは、このような限られたメンバーだけの秘密会議の場を使って開発途上国を締め上げることでよく知られているが、それが最も激しく行われるのがWTOだと言われている。

EUと米国の最も重要な違いは、このような公式代表団や企業のかかわり方に見られるものではないだろう。最も重要な違いは、このようなやり方に反対する市民活動にある。英国のTrade Justice Movementは、EUの自由貿易主義を拒否する何百万という人々を団結させた。またヨーロッパ大陸中で、EUの「リスボン戦略」の競争力強化(新自由主義というものをEU的に表現するとこうなる)に心の底から反対する幅広い社会運動が起きている。2006年6月の『フィナンシャル・タイムズ』紙に、70以上のヨーロッパのグループが共同で「Not in Our Name」という意見広告を出し、利己的な貿易方針を押し進めることをやめないマンデルソンとEUの貿易を担当する閣僚たちを批判した。

ほかにもEUと米国に違いがあるとすれば、そのスタイルかもしれない。ヨーロッパの当局者たちは、米国の交渉団が国際的な場で行っているようなあからさまな攻撃をすることにはしばしば良心の呵責を覚えている。また、時には配慮と懸念というイメージを使って真意をおおい隠す。WTOにおけるEUの駆け引きについてインタビューに応じたあるアジアの交渉代表者は、この違いを見事な表現でまとめてくれた。「EUは、君の墓穴を掘っていたとしてもほほ笑みかけてくれるだろうね。しかし米国はと言えば、暗い墓穴を掘るときは暗い顔をして掘るだろう」


by ジョン・ヒラリー
英国のNGO「War on Want」で貿易キャンペーンを担当している。

 

 



 


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