消費者ではなく市民として
〜スウェットショップの搾取をなくすには

Sweat, fire and ethics
New Internationalist No.399
April 2007 p20-21

 

スウェットショップが帰ってきた。ボブ・ジェフコットは、買い物よりも市民的な行動の方がスウェットショップ[訳注1]の撲滅には有効だろうと主張する。

私が働くMaquila Solidarity Networkには、フェアトレードとして認証された、またはスウェットショップ・フリー(スウェットショップで製造されたものではない)の衣類はどこで買えるのかという問い合わせがほぼ毎日のように寄せられる。オルタナティブな小売店でさえ、「スウェットショップ・フリー」のメーカーのリストはないかと私たちに問い合わせてくる。そんな問い合わせに対して、私たちは何と答えるべきなのだろうか? 残念ながら、その答えは単純なものではない。

まずは、衣料品の材料である綿について考えてみよう。もしもあなたがカナダに住んでいれば、近くのCotton Ginny[訳注2]に行って有機栽培(オーガニック)でしかもフェアトレードのコットンとしても認証されたTシャツがすぐに買えるだろう。英国に住んでいれば、フェアトレード専門の小さな店だけでなく、地元のデパートMarks & SpencerでもすでにフェアトレードコットンのラベルのついたTシャツや衣料品を扱っているかもしれない。

これは良い影響をもたらしているのではないだろうか。 有機栽培のコットンは環境への負担が軽い上に、農民が有害な化学物質にさらされることもなくなる。フェアトレードとして認定されたコットンであればさらに良い。そうなれば、南の国の農民にはより高い買い取り価格が保証され、売り上げの一部は彼らの社会環境向上の支援にも使われる。

では一方で、畑で採れた綿が商品へと変わっていく加工工程の状況はどうなっているのだろうか? 私たちが店で買うTシャツを作る中国の紡績工場やバングラデシュの縫製工場で働く人々の労働環境について、フェアトレードコットンラベルは何か保証してくれているのだろうか。

残念なことに、ラベルはほとんど何も保証していない。フェアトレードコットンラベルが保証しているのは、綿の栽培についてであり、Tシャツの生産工程の状況についてではない。

ただし、企業がフェアトレードコットンラベルを商品に付けるためには、加工工場の状態が第三者によって監査されていることの証明を提出する必要がある。しかし現在、社会監査法人が商売として行っているこの種の工場監査は、あてにできないことでよく知られているる。つまりこのことは、私たちの着ているオーガニックでフェアトレードコットン認証ラベルのついたTシャツが、危険な労働環境の下、極低賃金で1日18時間強制的に働かされている15歳の少女によって作られた可能性もあるということを示している。では、消費者としてはどうすればよいのだろうか。

まずは、倫理的な買い物の限界を認識することから始めることもできるのではないだろうか。私たち個人の消費行動を変えるだけでスウェットショップのひどい待遇がなくなると考えることは、少々過大な期待ではないだろうか。結局、そのような劣悪な待遇は、衣料品産業全体にはびこっており、それはほとんど産業の歴史と同じくらい長く続いてきた慣行である。

「スウェットショップ sweatshop」という言葉は、1800年代終わりごろに米国で生まれた。この言葉が示すのは、労働者を人間の限界まで働かせてできるだけ利益を搾り取ろうとする工場の厳しい労働環境と非人間的な処遇のことで、しばしば下請け会社の状況を指している。

20世紀初頭、100人以上の縫製工場労働者の悲惨な死が米国の大衆ゴシップ紙上をにぎわし、「スウェットショップ」はよく使われる言葉になった。1911年3月25日には、ニューヨークのアッシュビルの9階にあるTriangle Shirtwaist社から出火したが、そこは狭い通路にミシンが所狭しと並び、階段はひとつしかなかった。労働者は避難できず、146人が焼死したり煙に巻かれたりして死亡した。中には、運を天に任せてビルから飛び降りる人もいた。飛び降りてくる若い女性や少女たちをネットで受け止めようと試みていた消防士と群衆の上に、人間が落ちていった。

グローバル化と自由貿易

その後数十年間、特に第二次世界大戦後は、政府の規制と組合組織のおかげで工場の労働環境には著しい改善が見られた。この時期、すべてとは言えないまでも、北米の縫製工場の労働者たちの多くは安定した雇用を享受し、比較的まともな労働条件で働いていた。しかし、それも長くは続かなかった。

グローバル化と自由貿易がすべてを変えてしまった。衣料品企業は、生産コスト削減のために香港、韓国、台湾にあるアジアの企業に生産を外注し始めた。その結果ナイキなどの企業は「空洞化」し、ファッショナブルなスポーツウェアのデザインとブランドのマーケティングが仕事のすべてとなった。そのほかの小売企業やディスカウントショップもナイキの後を追い、海外の工場への外注を進め、競争は激化した。アジアの工場は、さらに低賃金のアジア、ラテンアメリカ、アフリカの国々へ移り始めた。最も低い賃金と最悪の労働条件を追求する「最底辺への競争」が加速した。

今日、生産コストが高いと考えられているメキシコやタイなどの国々では、労働者が大量に解雇される事態が起きている。ほとんどの生産が中国とインドにシフトする一方で、バングラデシュなど他の貧困国は格安の人件費によって受注を引き付けている。

2005年4月11日、午前1時、バングラデシュの首都ダッカのサバール地区にあるSpectrum Sweater社とShahriar Fabrics社の工場が入居している9階建てのビルが崩壊した。労働者64人が死亡、数十人が負傷し、数百人が仕事を失った。ビルががれきと化すたった16時間前、ビルの柱に亀裂が入っていると労働者たちが訴えていたばかりだった。ビルの基礎部分は不十分な造りだった上、もともとあったビルに5階分のフロアが建築許可もなく増築されていたのである。さらに状況を悪化させたのが、4階と7階に設置されていた重量のある機械であった。

ヨーロッパの多くの大手小売企業がSpectrumの工場に衣料品の製造を委託していたが、どの企業もこの構造と安全衛生の問題を見つけ出すことができなかった。

「4月11日の悲劇の原因は怠慢である」。バングラデシュの女性労働者団体Karmojibi Nariの代表のShirin Akhterはこう語った。「それは事故ではなく殺人です」

2006年の2月と3月には、このほかにもバングラデシュの4つの工場で惨事が起こった。推定で88人の若い女性と少女が死亡し、250人以上が負傷した。ほとんどの犠牲者は、Triangle Shirtwaist社のケース(工場の出入口が施錠されていたかふさがれていた)をほうふつとさせる工場の火事によって死亡した。

「スウェットショップ」という言葉は、12年前に私たちがMaquila Solidarity Networkを立ち上げたころ一般にも使われるようになった。私たちは高校や大学で講演を行ったが、その実態は彼らにショックを与えた。超低賃金、危険な労働環境下での強制的な1日18時間の労働。このような状況の中で学生たちのお気に入りのブランドを作っているのは、彼らと同じ年頃の労働者なのである。

有名ブランドの汚名

ナイキのマークが入った製品を誇らしげに身に着けていた学生たちは、ナイキのCEO(最高経営責任者)であるPhil Knightに怒りの手紙を書き、ナイキのスウェットショップで作られたものを身に付けることは絶対にないだろうと宣言した。しかし、悪者はこの超有名ブランドだけではなかった。ナイキほど知られていない企業もナイキと同じ工場を使っていたり、またはもっとひどい状況の工場で生産していたりすることもある。

あれから12年、ナイキやそのほかの有名ブランドには大きな汚点が残り、「スウェットショップ」の意味を若者たちに説明する必要もなくなった。ナイキやギャップなどの企業は、CSR(企業の社会的責任)報告書を発行し、労働者の権利に対するいくつものひどい侵害が、グローバルなサプライチェーン[訳注3]全体に引き続きはびこる問題であることを認めた。

現在大手ブランド企業の中には、「行動基準順守担当者」を置いているところもあり、苦情に対してほぼ即答し、状況を調査して企業側が進んで取り組む「改善」点について報告すると約束するようになっている。

しかしそのような進展にもかかわらず、実際には労働の現場はほとんど変わっていない。だが、大手ブランドの下請け工場では、児童労働はわずかながら減少し、強制的な妊娠検査と安全衛生面での違反の減少も見られる。しかしまた一方で、超低賃金、強制的に残業をさせての長時間労働、待遇改善を要求して団結を試みた労働者たちの大量解雇などが、業界全体でいまだにあたりまえのように行われている。

輸入割当(クォータ)の廃止という最近の世界貿易ルールの変更は、最底辺を求める競争を再び加速した。行動基準順守を求める同じ企業が、より早くより安く製品を作るように工場に要求し、それができなければ他の国へ生産を移すと脅しをかける。矛盾した圧力を受けた工場は、ひどい状況や下請け・孫請けの使用を隠そうとする。その根底にあるのは、あくまでも低賃金での長時間労働を求める姿勢である。

大手ブランドを狙い撃ちすることはもはや十分な解決策ではない。スウェットショップの虐待が業界全体に広がっていることを考えれば、選択的な買い物も解決策にはならない。

私たちがまず最初にする必要があることは、私たち自身は単なる消費者ではなく、世界の、そして各国の市民でもあることを思い出すことである。私たちは、自分が住む地域の教育委員会、行政、大学などに対して、倫理的な購買方針を採用するように働きかけることができる。その方針というのは、どこの工場を使っているのかを明らかにし、工場の現状を改善するための真剣な取り組みを実施していることの証明を衣料品納入企業に対して要求するものだ。労働者の権利が侵害されているような場合、または労働者の団結の努力を支援するために、私たちは企業に対して手紙を書くこともできる。私たちは政府に圧力をかけ、労働者に対して相当ひどく繰り返される権利侵害を改善できない企業に対してその責任を追及する政策や規制をつくるよう促すこともできる。

私たちが買い物をするときの選択については、多少は不安を和らげるべきだ。しかし、私たちの衣料品やスポーツシューズを一層魅力的にしているブランドマークを陰で支えて働く若い女性や少女たちを支援するために、私たちができることをもう少し進めるべきである。

ボブ・ジェフコット
カナダのトロントを拠点に活動するMaquila Solidarity Networkのスタッフ。

訳注1:危険で非衛生的な職場環境、極めて低い賃金での長時間労働、労働者の団結や抗議に対する不当な解雇など、労働者の基本的な権利を無視して働かせる搾取工場のこと。
訳注2:女性と子ども用の衣類を販売するカナダの小売企業。
訳注3:原材料の調達から販売に至るまでの開発、調達、製造、輸送、小売りなどの一連の商品供給プロセス。

 

アクション!


Maquila Solidarity Network
カナダに拠点を置きスウェットショップ反対キャンペーンを行う団体。

Pesticides Action Network
農薬の反対キャンペーンとオーガニックコットンの普及を進める国際的なNGOネットワークに加入している英国のNGO。特に、アフリカと南の国々を対象としている。

Gossypium
フェアトレードとオーガニックコットンの衣類を扱う企業。

Centre for Sustainable Agriculture
ハイデラバード(インド)に拠点を置くグループで、農民の自殺という問題を提起し、有機栽培と持続可能な農業を提唱する上で重要な役割を果たしている。[訳注:詳しくはNIジャパンp16参照]

Honeybee Network
有機栽培農業と農民主導の発明を支援するネットワークで、グジャラート(インド)を中心に活動する。[訳注:詳しくはNIジャパンp13参照]

Grain
農業における生物多様性と農民の権利を擁護する活動を展開する国際的な組織。

Clean Clothes Campaign
国際的なネットワークを持つ、反スウェットショップ活動を行う組織。

Centre for Science and the Environment
インドの公益のための科学団体。綿に関する素晴らしい報告を発表している。

 
消えつつある日本の綿の原産種、和綿に関するリポートはこちらから

 

 


戻る