「やるべき仕事をやっただけです」
'I was just doing my job'
New Internationalist No.431
April 2010 p15

まるでハリウッド映画のストーリーのような展開だ。ある片田舎で、珍しい種類のがんが多いことにこの町の医師が気づく。その町の上流には、汚水をためた世界最大の人工池があり、それが意味することはあまりにも明白である。

その医師が抱いていた懸念を公表すると、職業倫理に反する行為を行ったという容疑で彼に対する捜査が始まり、医師免許剥奪という恐れも出てきた。

現実に、フィクションと同じくらい不思議なことが起こりうる。

「これが10年前だったら、こんな事態になると忠告されても信じなかったでしょう。何を寝言を言ってるんだ!とね」とジョン・オコナー医師は言う。

オコナー医師が初めて懸念を表明したのは2006年のことだ。がんにかかる住民が増えており、特に胆管がんが増えているという報告をCBCラジオで行った。胆管がんは珍しいタイプのがんで、死亡率も高い。メディアがこれを大きく取り上げたため、政府は住民の健康状態の調査を約束した。「メディアが関心を持ってから、ようやく政府は重い腰をあげたんです」と彼は言う。

しかしこの公の場での発言は、職業倫理に反する言動だという告発を受ける結果を招いた。それは、政府への信頼をゆるがし、コミュニティーに「不当な不安」を与えたというのである。

2007年1月、5人の官僚たち(保健省から3人、アルバータ州保健局から1人、環境省から1人)がアルバータ州内科・外科医師会(CPSA)に異議を申し立てた。そして2007年から2009年にかけてオコナー医師に対する正式な捜査が行われ、彼はその間医師免許剥奪の脅威にさらされた

政府機関がこの種の告発を行うのは極めて異例だ、とミキソー・クリー民族のジョージ・ポイトラスは言う。「政府は、何が何でもオイルサンドの掘削を続けたかったのでしょうね。余計な仕事をしないように、彼には相当な圧力がかかっていました」

2カ月後、アルバータ州医師会は全会一致でオコナー医師支持を決議し、患者に必要なことを代弁するという彼の専門家としての義務も支持することを決議した。

オコナー医師への告発のうち、3つはすぐに取り下げられたが、もうひとつの「不当な不安」だけが残った。2008年3月、フォートチプヤンの住民たちは保健省およびCPSAに対してその告発を取り下げるよう公式声明を発表した。

「あまりにひどい言いがかりです。不当な不安を引き起こしたなんてなぜ言えるんでしょう。実際人々が病んでいるのを、私たちはこの目で見てきたのに」。アサバスカ・チプヤン民族のエリエル・チェクウィ・デランガーはこう語る。

2009年11月、CPSAはオコナー医師に対するすべての告発を取り下げる内容の最終報告書*を出した。保健省の主張を一部支持しながらも、次のように強調した。「……どの医師によるものであっても、公衆衛生上の問題を指摘する行為は賞賛に値する」

報告書は、オコナー医師が町のがん患者の総数に関して「不正確な、または虚偽の主張」を行ったと認定していた。この点に関してオコナー医師は、自身で「確度は80%だ」としていたにせよ、警告を発する前にもっと慎重に病理学者の判断を仰ぐべきであったと語る。

しかし、もしもすべてやり直すことができたとしても、彼が控えめになるようなことはないだろう。むしろその逆だ。「最初からずっと積極的に行動しますし、どんどん発言もしますよ」、と彼は言う。「私はあのころはナイーブでした。政府が必要な手を打ってくれるものと信じきっていたんです。でも彼らは、フォートチプヤンで起きていたこととオイルサンドとの関係を最小限に見せようと手を尽くしていました。今では私も分かっています。政府と石油業界の境界は曖昧なもので、アルバータ州においては恐らくそれは存在しないということがね」

それ以降、彼はオイルサンドに関するドキュメンタリー映画4本で大きく取り上げられ、開業医としては異例の知名度を得た。髪に白いものが混じってきたアイルランド系の医師の彼が、決して予想だにせず、また欲してもいなかった名声である。

「みなは私のことを内部告発をした『ヒーロー』と呼びます。だけど私が演奏できるのはバンジョーで、口笛は下手なんですよ」、とオコナー医師はジョークを言う。[訳注:内部告発者のことを英語ではwhistle-blower(口笛を吹く人)と表現する]

「私はヒーローじゃありません。私がやるべき仕事をやっただけです。それはまだ終わっていません。もう今では、私には恐れるものは何もありません。私が見つけたことをもとに、言いたいことを言っていきます」

*CPSAの報告書はこちらから閲覧可能(PDFファイル) http://bit.ly/bzUgrI




翻訳協力:田中 泉





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