アルゼンチンの挑戦
(要約)
Argentina's challenge

New Internationalist No.463
June 2013 p10-12

今、アルゼンチンが興味深い。この国での動きは、他の国々に何を示唆しているのか? バネッサ・ベアードが、ブエノスアイレスから報告する。

クリスティーナ・フェルナンデス・デ・キルチネル大統領[訳注:2003年から07年まで大統領を務めたネストル・キルチネルは夫]のリーダーシップの下、この国はさまざまな課題に対処している。

・過去に経験したような債務危機を招きかねないハゲタカファンド。(関連記事はNI 6月号p18 "Facing the vultures"参照)
・フォークランド諸島をめぐる帝国主義的な行いが非難されている英国との関係。
・世界貿易機関(WTO)や貿易パートナーを困惑させている独自の輸入制限と通貨規制。
・大統領が強く推進する司法制度における「民主化」。
・強大なメディアグループ「クラリン」の独占状態の解消と保有可能なケーブルTV局ライセンス数の制限。

このクラリンは、さまざまな方面から手を伸ばし、政府が犯罪や汚職に手を染め、経済の停滞やインフレを引き起こしていると言いはやし、大統領は「独裁主義」で「報道の自由」を阻害していると非難した。そして同グループの支持者100万人が抗議行動を行った。

このような話は国内メディア、そして一部海外メディアでも報道されている。しかし一方で、政府や政治の話ではない、愛国心やメディアの話でもない、一般の人々が毎日をどう生き延びているのかという話がメディアに取り上げられることは少ない。

過去11年にわたり、アルゼンチンは茨の道を歩んできた。2001年から02年にかけ、同国は史上最悪の債務危機に見舞われ、銀行は倒産し、飢えと貧困が広がり、抗議者たちは道路を封鎖して通行するトラックから食料を奪った。人々は路上に出て、政府や政治家に対して「みな出て行け」と叫びながら鍋をたたいた。そして2週間の間に大統領が5人変わった。

しかしそんな混乱から生まれたのが、人を動員しての包囲戦術、地域集会、物々交換システムなど人々が主導する活動である。意思決定は合意制になり、直接民主主義が台頭するにつれ、人々の間では社会が変わるのではないかという期待も膨らんだ。だがそんな活動も、一部は政党に取り込まれたり分断されたりしてしまった。とはいえ一部は残り、人々の生活を改善し、社会正義の指針ともなっている。

最もそれが顕著なのが職場の「回復」である。労働者は、会社が傾いても絶望はしない。彼らは会社を自分たちで引き取って経営するのである。現在アルゼンチンにはそのような会社が200社以上あり、その数は増えている。その7割は同一賃金で上下関係もない対等な職場関係を築いている会社である。(p14 "Who needs a boss?")

路上の廃品回収者たちからダンボールを買い取って本を作る「エロイーサ・カルトネラ」*など、危機から生まれたビジネスもある。地域の協同組合も多く、2012年だけで6024の協同組合が誕生しており、人々は協同組合で教育や仕事の機会を得ている。(p16 "Speak truth")

人権の分野でも向上はめざましく、母親や祖母らの活動により過去の独裁者、拷問実施者、その協力者たちが法の裁きを受けるようになったり(p21 "Not one step backwards")、トランス・ジェンダーの人権を擁護する最も進んだ法律を持つ国でもある(p23 "Trans revolutionary")。

このような社会変革は現実のものであるが批判も耳にする。ネストル・キルチネル前大統領とクリスティーナ・キルチネル大統領の政権は、省庁での仕事を与えることによって社会運動の闘争的な運動家たちを取り込み、変革を求める団体を効果的に「不活性化」した、などというものだ。しかしまた、革新的な運動と政府の間の交流により、非常に重要な変化と安定への方策がもたらされたという声もある。貧困は劇的に減少し、保健制度は拡大され、人々の生活は2003年のネストル・キルチネル前大統領の選挙以降大幅に改善された。

アルゼンチンでの出来事はヨーロッパにも飛び火し、労働者が経営する工場も生まれている。また、不安定な状況が続くギリシャとスペインでは、地域集会が日々を生き抜く大事な手段となっている。これらのようなヨーロッパでの動きが持続していくのかはまだ何とも言えない段階である。また、アルゼンチンのような民衆行動が他の国々に伝搬していくのかもまだ定かではない。

アルゼンチン国内でも依然としてさまざまな闘いが続いている。そんな場所のひとつであるブエノスアイレス中心部にある元小児病院兼児童養護施設では、使われなくなったその施設に長い間住み着いている人々が居住の権利をめぐって行政と渡り合っている。

その施設の壁には、アルゼンチンの人々の思いを表すスローガンが書かれている:「闘争に敗北はない ― あきらめない限りは」◆

*エロイーサ・カルトネラについては、2004年4月号(NI366)に"Profile of Eloisa Cartonera "を掲載した。和訳記事「貧者のための出版社」は次のサイトに掲載。
http://www.ni-japan.com/topic366.htm




No.463 Argentina's challenge - doing it differently



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