「私にはそれをするしかなかったんです」
‘I had to do it’

New Internationalist No.471
April 2014 p16-18
何が内部告発者を駆り立て、リスクも顧みず何のために立ち上がるのか。精神分析医のデーヴィット・モーガンが説明する。

映画『大統領の陰謀(All the President's Men)』『エリン・ブロコビッチ(Erin Brockovich)』『インサイダー(The Insider)』をご存じだろうか。[訳注*]

これらはすべて内部告発者を取り上げた映画だ。その中では、内部告発者の名誉は保証されているように見える。映画では、その告発の過程の中で、政府やリーダーたちよりも内部告発者自身が重要な役割を持って描かれている。

しかし、内部告発者を支援する団体でボランティア・コンサルタントとして働いてきた私の経験からすると、ほとんどの内部告発者は大きく異なる経験をしている。

大抵の場合、その行動によって得るものもなく失うだけという経験をし、人生はひっくり返り、彼らが属するさまざまな場所とのかかわりも消えてしまう。精神の安定は失われ、非常に多くの場合、自らの価値観や意欲に対する自信、そして他人への信頼も失われてしまう。

何が彼らを内部告発に駆り立て、彼らが大きなリスクもいとわないのはなぜなのだろうか?

 裏切り者か英雄か

「内部告発者(whistleblower)」と聞くと、密告と同じようになんとなく後ろめたい非難めいた響きがある。私としては、「社会的開示者(social discloser)」の方が良いと考えるが、ドイツではこのような言葉はなく、通常使われている言葉は翻訳すると「裏切り者」となる。

北朝鮮やイランなどの全体主義国家では、いかなる裏切り行為でも知られてしまえば身の毛もよだつような結末が待っているだろう。しかしヨーロッパ、北米、あるいはオーストラリアといった成熟した民主主義の国家では、異なる結末となるだろう。

だが私が驚いたのは、法律や規範を破ったり、社会の安定に関する前提を損なったりした者たちに対する、私たちの社会がとる厳しい姿勢である。

例えば、必要な基準に全く満たない素材を使っていることが分かった自動車メーカーを考えてみよう。業績が悪く苦しい企業にとって、スキャンダルによる経済的影響は壊滅的な打撃になるかもしれない。この場合内部告発者は、自分と同僚たちを失業者にする立場にある。しかしまた内部告発者は、自動車を使うユーザーのリスクも意識している。彼は労働組合や上司に掛け合い、そして疎まれるが、最終的には告発を行う。

そして彼はEメールにて殺害予告を受け、職を失う。そして健康状態が悪化し始める。彼は精神的に問題を抱えていると非難されるが、もちろんその時までには本当に精神に問題を抱えるようになっている。彼は地元選出の国会議員に話しに行くが、「証拠がない」と言われる。そんな国会議員や地元紙は、地域の利害関係者から資金提供を受けているのだ。

予算削減の影響や、英国の一部病院や高齢者福祉施設で蔓延しているひどい看護の実態を告発する医療従事者について考えてみよう。それは、BBCの番組Panoramaのために、あるNHS(国営保健サービス)病院での高齢患者に対する虐待や放置をひそかに映像で記録した、マーギー・ヘイウッドのような人々だ。だが、罰を受けたのは彼女の方で、「守秘義務を守らなかった」として看護師免許を剥奪された。しかし、患者を虐待していたスタッフはそのまま働き続けることを許されたのだ。

隠し続ける真実を暴くことで生じる感情の副産物については、しばしば過小評価されている。現状維持を図るため、告発に対しては強力な力が作用する。告発者が脅かすのは、告発対象を許容するために組織が作り上げてきた防御と信念のシステムである。暴露は組織や同僚にとって、恥辱や攻撃のように感じられるかもしれない。そんな同僚たちは、告発者に報復することを正当化し、その告発者の信用をおとしめたり病的であると言って一丸となって対抗するかもしれない。(1)

 被害妄想?

「この部屋は盗聴されていませんよね?」私が初めて話を聞いた告発者は、私のカウンセリング室について尋ねた。

通常このような懸念は、敵意の表出でもある幻想が、迫害のもとになっている外の世界に外部化されたもので、他の人間からすれば妄想、幻覚と考えられる。外部化することによって、内的な敵意の衝動は減少し、「落ち着く」のである。

しかし、内部告発者になると、「この部屋は盗聴されていませんよね?」という質問はあながち妄想とは言えない。

中には疑いなく被害妄想の症状が見られたり、そうなる兆候がある人もいる。彼らは告発後、監視されているように感じ、他者への信頼感は低い。むやみな起訴や面倒を起こす人間と決めつけることも簡単である。

もちろんすべての内部告発者が良心から、あるいは利他的な動機から行動するわけでない。告発はしつこい報復や屈辱を与えるためにも行われることがある。昇進の問題、恋愛の失敗、給料への不満が、当人が所属するコミュニティー、あるいは雇用主や家族に恥をかかせたり罰を与えたりする動機を強めていく可能性がある。しかし、このような人々は少数派であると私は考える。

より多いと思われるのは、内部告発の対象となった組織が、モラルを持つ個人の破壊に加担することだ。しかもそれはしばしば成功している。内部告発者は病み、自身の行動と信念に対する他者からの反応に折り合いをつけられなくなるのだ。(1)

内部告発者は、自分の考えを理解するために、自分が常に信じている信念をとりあえず棚上げにすべきである。例えば、真実は組織的習性よりも影響が大きい、責任者は正しいことをすべきである、この無情な世界において家族は避難所である、などだ。

私たちが内部に持つ父権的イメージを外部の権力者に投影していることは、精神分析医の間でも異論はない。その父権的イメージが良性で公平なものであれば、そのイメージとは異なる外部権力者の失敗によって自分に混乱が生じる。多くの内部告発者は自分の経験したことから回復するが、それでも彼らは組織と衝突する前の世界とは大きく異なる世界に住むようになる。

正当な理由があって告発する多くの人々は、何らかの見返り、称賛、尊敬を期待しているのかもしれないが、落胆することが多い。しばしば、単に知りたくないこともある。愛する人々の支援がある人もいれば、自分に罪がある、家族をリスクにさらしたと考えることにより、愛する人々から非難されていると感じる人々もいる。

団結をおびやかされる組織が持つ敵対心について、内部告発者は知っておくべきだろう。個人的なストレスが高く疎外が強い時代、自分を信じる力を保っていく方法を見つける必要がある。

また彼らには、内部告発をする無意識的な理由を理解するための助けも必要である。

 二重化できない思考

その場合、個人の心理、経験、無意識な動機がかかわってくる。以前受けたあらゆる感情的、心理的な困難がさらに悪化し、あるいはそれが表出し、動機と誠実さが公に疑われる。逆転のプロセスと投影によって告発対象の組織は、悪事への責任を認識しなくなる。従って内部告発者は、自分たちが犯罪者であると感じ、深刻な自信喪失と気分の落ち込みに至るのだ。

ジョージ・オーウェルの『1984』では、「二重思考(double-think)」という言葉が使われている。これは心理学的な現象では「二重化あるいはダブリング(doubling)」と呼ばれるものが背景にある。私は「分裂(splitting)」と呼ぶが、公的あるいは組織的なモラルを持ちながら、個人として真実であるモラルを維持することを指す。家ではその通り行動しても問題はないが、会社でその真実を口に出せば、組織だけでなく周囲や家族にも影響が及ぶ。このような状況では、その矛盾した考え方をそれぞれ異なる自分と忠誠心の構造に分けるようにすれば良い。

米国の心理学者フレッド・アルフレッドは、内部告発者は「分裂」することができない人々が多いと述べている。内在する矛盾は非常に大きく、非常に辛いものになるのだろう。

ドイツ人の哲学者ハンナ・アーレントは、勇敢な人々の中でも、自分が行っていることについて真剣に話す人、二重化できないあるいは二重化して話ができない人について書いている。彼らは、「正しいことをする」よう理性で抑えられない衝動を感じているのである。それは、ある患者が私に言ったことにも表れている。「私にはそれをするしかなかったんです。もし声を上げなかったら、それは自分ではありません」

 社会全体を描く

「格差の上に市場経済が繁栄し、自己利益は常に善を打ち負かす」とは、哲学者、精神分析医、文化批評家でもあるスラヴォイ・ジジェクの言葉である。(2)

他人の犠牲の上に現在のライフスタイルを続ける私たちは、内部告発者が暴露する腐敗を受け入れている訳だが、暴露が行われないようにするには、彼らを誹謗中傷する必要が出てくる。彼らの孤独な声は、私たちが失いたくない社会の中である役割を担っている。

私たちは、告発をする人々の動機を完全に読み解くことはできない。それをすることが必要なのか私には分からない。エドワード・スノーデンやジュリアン・アサンジといった著名人の個人的なストーリーを題材に議論ができるだろう。

おそらく覚えておくべき最も重要なことは、告発と透明性を許容しない社会は、全体主義国家へ向かう道を歩んでいるということだ。従って内部告発者は、私たち全員の良心として行動を起こしているのである。


デーヴィット・モーガン
ロンドンを拠点とする精神分析医で、Whistleblowers UKでボランティアとして活動する。


(1) C Fred Alford, Whistleblowers: Broken Lives and Organizational Power, Cornell University Press, 2002.
(2) Slavoj Zizek, ‘Global Protest’, London Review of Books Vol 35, no 14, 2013.

*訳注:各映画についてはこちらを参照。
大統領の陰謀
エリン・ブロコビッチ
インサイダー



No.471 Blow the whistle! (内部の秘密を暴く時)



NIミニリポートは、メルマガで配信1カ月後にこちらに掲載となります。早く読みたい方は、ぜひこちらメルマガ登録を。





オンラインリポート一覧へ