エシカル・ゴールド(倫理的な金)という神話
The myth of ethical gold

New Internationalist No.475
September 2014 p16-17

古き良きイメージによるイメージ作りと、環境や人権に対する過大な負担が対じする。ステファニー・ボイドが、強欲な産業の身勝手なやり方を暴く。

現代の産業界は、ミダス王[訳注:ギリシャ神話の中に出てくる、触れるものがすべて金に変わる能力を授けられた王]のような能力を得た。金の含有量がわずかな低品位の鉱山からでも、大きな利益を上げられるようになったのだ。しかし、それはまた壊滅的な影響ももたらす。ペルーの山岳地帯では、900人を超える農民が漏れ出た水銀により中毒になり、ガーナのアキーム民族は、自分たちの土地である森から強制立ち退きにあい、インドネシアのある湾と漁民たちは、ヒ素と水銀に汚染され、米国ネバダ州にあるウエスタン・ショショニ居留区では、条約で決められた権利と先祖代々住んできた土地が奪われた。

これらは、たった1社に向けられた多く非難の一部である。その1社とは、グローバルな金の帝国の一画を担うニューモント・マイニング社だ。

だがいまだにニューモントは、自社をエシカル・ゴールド(倫理的な金)の生産者であると広報している。ニューモントは、ISO(国際標準化機構)の環境マネジメントの認証を受け、何事もなかったようにダウ・ジョーンズ・サステナビリティ・インデックスの銘柄に7年連続で選ばれている。

そしてまたニューモントは、国連グローバル・コンパクト、安全と人権に関する自主原則、反汚職パートナー・イニシアティブといった、そうそうたる団体や協定に加盟している。

この加盟による安心感も、その詳細を知れば消えてしまうだろう。これらの組織への加盟は自主的なもので、その報告業務は通常、その企業、あるいは企業から有料で依頼される監査役によって行われる。たとえ第三者の監査役が存在しても、ニューモントのような人権侵害で非難されている会社がひっそりとメンバーであり続けることが可能な組織なのである。

ニューモントばかりを責めるのも不公平かもしれない。主要な金採掘企業は、人権侵害と環境汚染に関して非難されており、「企業としての責任(CR)」という矛盾したイメージアップ戦略で問題を覆い隠している。

▼環境への打撃▼

採掘産業の水関連の課題に40年以上取り組んでいる科学者のロバート・モランは、ほとんどの金鉱山は「私的な領土」のように運営されている、と話す。政府職員でも現場訪問時にはあらかじめ許可が必要で、使用されている化学物質や廃棄物の詳細については企業から提供されるデータと情報がすべてである。彼の長い経験からモランは言う。「水資源の問題から言えば、長期的に持続可能な鉱山など見たこともない」

しかし、人々が以前よりも情報を知り活動的になり、世界中で新しい鉱山への反対が起こると、鉱山業界は震え上がった。世界中で起こる社会不安は株価に影響し、ウォールストリート中毒の連中の心配のたねにもなった。

2年前、ニューモントのミナス・コンガ・プロジェクトは、地域での反対によって頓挫した。これが実施されていれば、ペルー山間部の複数の湖が破壊されていただろう。現在ニューモントは、地元の数百人の農民たちがいくつもの湖でニューモントの重機を入れないよう見張っているにもかかわらず、プロジェクトはゴーサインが出ているとして、不安になる投資家を説得しようと試みている。

この衝突は、ビジネス界でも大きな話題になったが、米国を拠点にするキリスト教徒投資サービス等の倫理的な投資会社の投資先には、依然としてニューモントが含まれている。

俗に言う倫理的な投資家たちは、自分たちと金産業のぬくぬくとした関係を守ろうとする。彼らは企業に、「注文をつけている」、厳しい言葉の書面を送っている、株主として解決策を求めているなどと言う。しかし、企業の基本的な運営方法の変革に失敗しているのであれば、そもそも倫理的な投資家たちのやり方は効果的と言えるのだろうか。また、彼らは単に、基準に値しない企業にお墨付きを与えているにすぎないのではないだろうか。

これらの矛盾は、「倫理的な金」などそもそも存在するのか、それは企業の新たな作り話にすぎないのではないか等々、社会的な意識を持つ多くの投資家に疑問を抱かせている。

▼完璧な認証?▼

10年前、アースワークス、オックスファムなど非営利団体が集まったグループが、この問題に取り組むために「汚れた金はゴメンだ」というキャンペーンを行った。米国のトップ10の宝飾品企業のうち8企業を含む、100以上の宝飾品店が「ゴールデン・ルール」という約束に署名し、人権侵害や環境破壊に手を染めている企業からは金を購入しないことを約束した。

するとすぐにやっかいな問題が持ち上がった。宝飾品企業は、どうやって「クリーンな金」を購入したらいいのか、という問題である。

人々を喜ばせることに常に積極的な業界は、消費者と宝飾品企業にクリーンでグリーンな金を示す認証機関として「責任ある宝飾品業のための協議会(RJC)」を設立した。

しかし、環境と人権に取り組む団体は「現実を惑わす輝き」という報告書の中で、RJCが不十分な基準を用いており、特に環境と労働者の権利に関する基準が低く、透明性にも欠けていると主張した。また、RJCの会員リストを見てみると、それはまるで人権侵害について非難を受けている「企業一覧」のようである。そのリストを見てみよう。

金採掘の巨大企業リオ・ティント社は非常に評判が悪く、2012年のオリンピックで結ばれたメダル供給契約に対し、環境と人権の団体が抗議を行ったほどである。そのほかの企業では、アルゴー・ヘレウスSA社がコンゴ民主共和国の違法武装グループから金を購入した疑いで捜査を受けている。コンゴの「紛争地の金」取引による利益は、1990年代から600万人以上が犠牲になっている血塗られた内戦が続く要因ともなっている。

他の2社、MKSファイナンス社とその関連企業PAMP社は、スイスの信頼の高い金加工企業であるが、ペルーのアマゾンで採掘された違法な金を購入したとして非難されている。ペルーのアマゾンでは、違法な金採掘によって4万ヘクタール以上が破壊され、金採掘業者は労働者の水銀中毒から強制労働や性目的の人身取引まで、人権侵害行為を非難されている。

▼採掘で生計を立てる小規模採掘者▼

RJCのような大規模な認証システムでは、鉱山から消費者に至る流れを追跡することは容易ではない。より小規模な認証ラベルの方がより高い成功を収めている。例えば、Fairtradeコーヒーの関係者によるFairtradeゴールド、「公正な採掘のための連盟(ARM)」によるフェアマインドなどである。どちらの認証機関も、ラテンアメリカとアフリカの小規模採掘グループと直接かかわり、トレーサビリティー(追跡可能性)を確保している。

フェアトレード・インターナショナルによれば、世界では1億人が小規模採掘で生計を立てている。小規模採掘者の生産量は毎年世界の金の10%にすぎないが、人数で言えば金鉱山の全労働者数の9割を占め、一家の稼ぎ手として重要な地位を占めている。

「鉱山労働者は貧困撲滅に立ち向かっている」と述べるのは、ARMのマニュエル・レイノソ副代表だ。「労働者を搾取し、利益の90%が国外に流出して何も残らない大規模鉱山とは違う」

レイノソは、小規模採掘者たちが直面している苦労を直接知っている。彼はペルー人ですでに高齢だが、その腕の筋肉もがっしりとした体格も、長年鉱山労働者として働いてきた証である。

認証にはまだ環境的な課題が残っていることも彼は認めている。ARMとFairtradeゴールドのすべてで水銀、シアン化物が使われていないということではないという。レイノソは、化学物質を使わなくてすむように取り組んでいるが、それは時間もお金もかかることだ、と言う。

ARMはアフリカで、化学物質を使わない重量分析による金精鉱の試験プロジェクトを実施している。そしてFairtradeは、化学物質を使用していない「エコロジカル・ゴールド」ラベルを立ち上げた。しかし、水銀やシアン化物が使われないとしても、鉱山は生態系に傷痕を残し、特に熱帯林や水源地帯など微妙なバランスを保っている地域には打撃を与える。

つまりそれは、Fairtradeやフェアマインドのようなプログラムは小規模でなければならないということを示している。もし規模が拡大すれば、持続可能ではなくなってしまう。

エドアルド・ギュディナスなど多くの環境保護専門家の主張は、金鉱山がないことが「持続可能」であると考えられる、というものだ。ギュディナスは、ラテンアメリカでの金採掘の一時停止を提唱している。

金の全生産量のうち、電子機器や医療材料で使用されるのは9%にすぎない。その他はジュエリーや金融セクターで使用される。ワールドゴールドカウンシルによれば、金供給量のすでに3分の1がリサイクルによって回収されたものである。つまり、電子機器や医療材料としての需要は、新たな鉱山なしに満たすことができるのだ。

このことが示すのは、現在の経済システムを再構築する必要性である。過剰消費を改め、小規模採掘者に新たな仕事を探すことだ。

社会的地位のある人々が、象牙を買い、見せびらかすようにアザラシの毛皮のコートを着ていたのもそう昔のことではない。金への投資や金の結婚指輪が、新たなタブー、戦争のシンボル、強欲、環境破壊の象徴となることはないのだろうか。

ひとつ確かなことがある。それは、私たちが「汚れた金」を支持し続ければ、現代においてミダス王のような結末を迎えるということだ。金を手に入れるために自然環境を破壊し、気づいた時にはすでに手遅れで、食べるものも飲むものもなくなっているのである。[訳注:ミダス王は、自分が触れた食べ物や飲み物がすべて金に変わるのを見て、金だけでは生きていけないことに気づき、身の破滅を悟った。]

by ステファニー・ボイド
ペルーを拠点に活動する作家、映画制作者で、New Internationalistへの寄稿も多い。著作に、金鉱山の環境と地域コミュニティーへの影響を描いた『The Price of Gold』が ある。
http://www.realeyz.tv/en/choropampa-the-price-of-gold.html




No.475 The absurdity of gold(もう金を買うのはやめよう)


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