張り巡らされた鎖
Everywhere in chains

New Internationalist No.479
January / February 2015 p22

調査報道ジャーナリストのニック・デービスが、英国における報道の自由という虚構について説明する。

英国の報道機関は自由であると言われているが、いくつもの鎖でつながれている。そのひとつは資金的なものだ。インターネットに読者と広告主を奪われたニュース・メディアは、日常のニュースの収集、あるいはより時間がかかる複雑な調査報道をするための資金確保に苦労している。その代わりが、政府と企業による見栄えの良いPRとプロパガンダ広告への依存である。

そのほかは、政治的な鎖がある。英国における公共セクターの活動は、あらゆる事が公職者の機密という幕に覆い隠されている。それを強いているのは政治家だが、単に公務員、警察官、介護福祉士などが記者に話すことを禁じるというとても単純なことだ。記者は、それぞれの広報担当者から情報を得ることとされているのである。

中でも最も重い鎖は法的なものだ。公職者の機密という文化は、内部告発者の処罰が可能な公職機密法によって強化されている。例えば、MI5(国内治安を担当する諜報部門)で働いていたデイビッド・シェイラーは、IRAのテロリストに対する作戦が役に立たないことを記者に明かした。その結果彼はヨーロッパ中を追われ、パリで投獄され、ロンドンに移送されて再び投獄された。他の内部告発者には恐ろしいメッセージとなり、それは明白である。

英国の刑法が無情なものと言うのであれば、民法はより弾圧的なものとさえ言えるだろう。私とジュリアン・アサンジ[訳注:内部告発サイト「ウィキリークス」の創設者]が、チェルシー・マニング[訳注:元米陸軍兵士で、ウィキリークスに米軍の機密情報を漏洩した]によってウィキリークスにもたらされた機密を掲載する新聞の提携組織を立ち上げることに合意した時、私たちは米紙ニューヨーク・タイムズを引き入れることを即断した。それは、英国の裁判所に対する一種の対策である。通常米国の裁判所は、ニュース・メディアが流そうとする報道内容の「事前抑制」を許可することはない。米国では裁判で争う余地があるが、英国では対照的に、「国家安全保障」という魔法の言葉が使われ、英紙ガーディアンほかいかなる英国のメディアにも報道を阻止する命令が下される。

これと似た考え方だが、私たちがエドワード・スノーデン[訳注:CIA(米中央情報局)等で情報収集活動に携わり、その方法や情報を暴露、告発した]から受け取った素材を保存したガーディアンの事務所のノートパソコンを、英国の情報機関の上層部が、事務所に行って破壊することをほのめかした時、ガーディアンのアラン・ラスブリッジャー編集長は、ニューヨーク・タイムズに素材のコピーを保存するという予防措置をとった。

英国は世界的にも誹謗中傷や名誉棄損に関する法律で知られている。しかしその法律も、活用するには尋常ではないほどの費用が必要で、攻撃された真の被害者であるメディアのほとんどにとって、それはたいてい役には立たない。しかし、費用を負担する余裕がある金持ちや権力者にとっては、その法律は抑圧の道具として非常に効果的だ。その法律で決定的なのは、記者が真実を報道することだけでは不十分で、公の法廷でそれを証明する必要があることだ。だが、最も重要な情報を寄せてくれることの多い匿名の情報源にとって、出廷は考えられないことなのだ。さらには、もしも英国の記者の過ちが認められた場合、裁判と損害賠償のための費用として、何十万ポンドの負担という罰が課せられる場合があるのだ。

法廷の侮辱も同様の足かせになる。私は、ウォーターゲート事件をきっかけに記者になったが、ウォーターゲート事件の発端は、民主党の事務所に泥棒が入ったことだった。米国では、その犯人たちが次の日に短時間出廷し、記者はそれを記事にすることができた。英国だったら、それを公にすることは許されなかっただろう。継続中の裁判に関して先入観を持たせるような記事を発表すれば、記者は法廷を侮辱したと見なされるのだ。

内部告発者は誰でもリスクを覚悟している。英国では、そのリスクは特に明白だ。何らかの成功を収めた者は、自らに政治的役割を見いだし、いつかは世に訴えようと内部告発をする傾向がある。それは、政治的キャンペーンの焦点作りをし、法的な鎖を安易に使ってがんじがらめにしないよう国を説き伏せるためなのである。


ニック・デービス
受賞歴のある調査報道ジャーナリスト、そしてドキュメンタリーフィルム制作者である。近著には、2014年8月に出版された『How the Truth Caught Up with Rupert Murdoch』がある。




No.479 Democracy in the digital era(デジタル時代のデモクラシー)


オンラインリポートは、メルマガで配信1カ月後ウェブサイトに掲載します。リポートを1カ月早く読めるメルマガはこちら登録できます。





オンラインリポート一覧へ