企業は手を出すな! Oh no you don't!
(New Internationalist No.351
November 2002 p23)

長い歴史ある無料の学校教育が全米で危機にさらされている。父母、教師、生徒達は、学校が売却されることを望んではいない。ニューヨークで繰り広げられる「学校選択」への抵抗の動きを、マシュー・ライスが報告する。

100年の歴史を誇るマンハッタンのナショナル・アーツ・クラブには、華麗な暖炉や書棚があり、メンバーの純銀製の食器コレクションも飾られている。そこで行われた昨年のある昼食会には、銀行家、企業弁護士、不動産業界実力者、ニューヨークのフィランソロピー(訳注)業界の代表達が集まった。これらの人々は、別にインサイダー取り引きの情報交換のために来た訳ではない。全国で困難に直面している公立(州立)学校、特に年間110億ドルが投入されるニューヨークの学校のシステムに興味を持って集まったのだ。

実は、ニューヨークの子供達の成績は良くない。階段の踊り場では性的暴行が起き、工事中の場所では破片に当たって死亡した子供達もいた。主要な新聞は全国でこの様な記事を書きたてるが、この様な事態にどう対処したら良いかという事については誰も話そうとしない。その代わり、世論を代表する人々が唱えるのは、この問題は「学校選択」にかかっているということだ。この「学校選択」は、徐々に公立学校への支援を減らし、私立学校への補助金を増やしていくことを婉曲して表す言葉だ。果たして、米国の義務教育の実験は、ここで幕を閉じてしまうのだろうか?

テレビ伝道師ジェリー・ファルウェルもそうだが、公立学校の全廃を主張する人間はそれ程多くはない。しかし、最初の大規模テレビ演説でブッシュ大統領は、「機能していない」学校へは連邦補助金をカットすると国内に向かって宣言した。彼が率先して指揮を取り、生徒であふれた教室を企業の手に委ねるという10年越しのプロセスが加速された。「今改革を訴えるコミュニティー組織連合(ACORN)」のデイヴィット・スワンソンは、「学校の地位を低下させ、最終的には根絶やしにしてしまおうという明確なキャンペーンがある」と考えている。

ここでまたアーツ・クラブの昼食会に戻る。企業フィランソロピー関係者が、窮地に陥っているワシントン・アービング高校を助けることになった。彼等の寄付は、「パートナーシップ」のために使われることになっていた。「パートナーシップ」とは、学校のための企業組織構造、またの名を「チャーター」というものの採用に対して教師の支持を得る事を主な活動としている。教師を説得すれば、学校を行政による運営から切り離すために今度は教師が父母を説得することが出来るはずだ。ニューヨークでは、学校を民間の手に委ねるには過半数の父母の同意が必要なのだ。

この学校の卒業生の一人で、よく知られた繊維会社を経営するノーマ・カマリは、彼女の時間と金を使って新しいファッション・デザイン学科を寄付した功績により、この昼食会で賞賛された。芸能人のベット・ミドラーは、新しい演劇センター創設と学校のために多額の寄付を募ると約束した。

しかしそこには暗雲が立ち込めていた。ワシントン・アーバイン高校のロバート・ダーキン校長の運営管理者の一人と、「パートナーシップ」の実行責任者が辞任した。ダーキンは、当時のジュリアーニニューヨーク市長とは大学の同期で、教師達からチャーターへの支持を取り付けるため、懸命に説得を行っていた。教師達は著名人とのミーティングに招待された。表向きは子供達のプログラム用にと寄付が集められたが、実際は広告キャンペーンや、選ばれた教師の特別プログラムに対する追加手当として使われた。しかし教師達は投票でチャーターへの支持を否決。教師の支援なくして父母の支援を取り付けることはほとんど不可能であった。そして、学校調査員、コミュニティーグループ、地域の新聞は、成績の改ざんや資金の不正使用の容疑で調査を始めた。

さらに強力なやり口が市のあちこちですぐに始まった。ニューヨーク市教育委員会のハロルド・レビー委員長は、一定の基準を満たさない5つの学校−ジュリーアーニは元々100校を目指していた−をエジソン・スクール社に委ねるだろうと言った。エジソン・スクール社は、全米最大の元公立学校と「チャーター」の運営企業である。レビーは、この5つの地域の父母を説得するためのキャンペーンを密かに始めた。しかしACORNは、ニューヨーク市は学校を公立として存続させるための情報を父母に提供しなければならない、という判決を勝ち取った。そして8対2の割合で、父母達は学校の民営化よりも改善を選んだ。「エジソンは出来る限りの小細工を使いました。彼等は無料でコンピュータを提供するとまで言いました」とスワンソンは語る。「しかし、私達はすでにコミュニティーに浸透していたので有利でした」

ACORN、また生徒や父母達にとっても、今回の民営化に対抗する勝利は良い経験になった。ある高校の前のバス停が、市交通局によって廃止にされた。その結果、2ブロック離れたバス停がその高校から一番近いバス停となった。「高校では、2ブロックも離れていたら何が起こるかわからない」とACORNニューヨークの執行責任者バーサ・ルイスは言う。そして生徒達は、「一軒一軒近所のお年寄りの家を回り、どのくらいバス停まで歩かなければならないのか訪ねたのです。そして付近の歴史を詳細に調べ、どのようにしてバス停の廃止が決定されるのか突き止めるために市交通局に赴きました」彼等は最終的にそのバス停を取り返したのだ。

現在ニューヨークでは、民営化の流れは減速している。しかし企業とその仲間のフィランソロピー関係者は、現在では民営化されたか絶滅してしまった公共の下水設備・衛生・住宅がかつてたどった道を、米国最後の公共社会プログラムである教育がたどって行くのかどうか、その動向を静観している。ところでナショナル・アーツ・クラブは、脱税容疑捜査の一環で強制捜査が着手された。

訳注)フィランソロピー:もともとは善意や博愛等の意味。現在は、特に企業の社会貢献活動や慈善事業を意味することが多い。

文:マシュー・ライス
訳:諸 英樹


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