米州自由貿易圏に対する人々の叫び Sound of the soul
(New Internationalist No.356
May 2003 p22-23)


ラテンアメリカにおいて、米州自由貿易圏(FTAA)に対する抵抗運動の先頭に立っているのはボリビアであるようだ。ジム・シュルツの報告。

これからやってくるFTAAとの経済的な結婚を、もしもボリビアが破談にしてしまえば、南米で一番貧しいこの国は地球上から消えうせてしまう。このようにボリビアのエリート達は考えている。

しかし、この国で盛り上がっている意見はまったく違うものである。2003年1月、多くのグループを巻き込んだ社会運動の波により、1週間に渡って路上では何度も抗議活動が繰り広げられ、この国の幹線道路2本の封鎖も行われた。この抗議の一番の争点は、もう長いこと戦いが続いている米国の支援によるコカ栽培の撲滅である。しかしその次に挙げられていたのは新しい要求で、ボリビアのFTAA参加中止を政府に求めるものだった。

政治的膠着状態に陥り、弾圧(衝突により、死者3人と多数の負傷者が出た)しても状況を打開できなかったゴンサロ・サンチェス・デ・ロサダ大統領は、抗議者達が掲げる要求(FTAA参加中止の件も含む)すべてについて公式に話し合う約束をした。評判となったボリビアでの水道民営化抵抗運動を率いたコチャバンバ労働者事務所のオスカー・オリベーラは、「私達には違う形の統合モデルが必要です」と述べる。「私達に必要なのは、私達の権利を尊重し、秘密主義ではなく参加主義、強制ではなく自由意思のモデル、つまりFTAAとはまったく逆のものなのです」

青々としたジャングルが広がり、肥沃な土地と天を貫く高い山々からなる人口1,000万人の内陸国ボリビア。この国が自由貿易ルールをめぐっての戦いに指導的役割を果たすであろうことは当然のように思える。ボリビア人達は、太古とそして近代の歴史の経験から、グローバルな経済活動という皮をかぶった貪欲と搾取について知りすぎている位なのだ。

例えばスペインの征服者達は、1500年代中頃にポトシの凍りつく高地平原にある何の変哲も無い丘の下に豊富な銀を発見し、3世紀に渡ってスペイン王朝に資金を供給し続けた。しかしその裏で、800万人もの犠牲者が出たと考えられている。人々のFTAAに対する疑念が、ボリビア人達の意識の奥にある、国外からやってきて絞りつくそうとする連中への抵抗心に火をつけたのだ。

昨年の国内政治の動向は、抵抗精神をFTAAに向ける上で重要な影響を及ぼした。昨年7月に行われた大統領選挙での大きな出来事は、ボリビアのコカ栽培者組合のカリスマリーダーであるエヴォ・モラレスが手堅く2位の得票数を得たことである。モラレスの立候補は、ネオリベラル(新自由主義)モデル反対派結集の求心力となり、もしもモラレスが当選したら米国からの援助を減らすと言って下手な脅しをかけた在ボリビア米国大使への丁度良い圧力となった。選挙以来モラレスは、彼の基盤をコカ問題からさらに広い分野に広げるため精力的に活動した。国中のFTAA反対派を結集させたのは、まさにそのためであった。

この他には、コミュニティーリーダー、ジャーナリスト、そして一般の多くの人々に対し、ボリビアが直面しているFTAAの脅威について活動家グループが粘り強く1年以上かけて説いて回り、反対する人々を本物のキャンペーンへと組織して行った。昨年4月に行なわれた最初の全国規模のワークショップには、学生、先住民の農民、労働者リーダー、環境問題研究家、女性リーダー等200名以上の人々が集まった。これらの人々が全国で運動を広げ支持を取り付けて行ったのである。

キャンペーンはすでに予想以上の成果を上げた。一般の人々への浸透を狙った第一段階の結果、FTAAに対する人々の深い疑念が頭をもたげるようになり、市民集会、ラジオのトークショー、人々の日常会話の中でもよく話題に上がるようになった。第二段階は政府を公式な交渉の席に着かせることで、それは現在進行中である。キャンペーンの目的は、FTAA参加を国民投票にはかることにある。

「政治家やビジネスリーダーが独占している情報、議論、決定が、私達の生活に多大な影響を及ぼすということを人々は理解しているのです」とオリベーラは言う。「私達が現在していることは、この情報独占を打ち破り、この問題について人々が自分達で理解し、よく考え、決定を下せるようにすることなのです」

執念深く次々と起こる政治的な出来事は、さらに深刻な影響を及ぼしてしまったようだ。財政赤字削減を求める国際通貨基金(IMF)の激しい圧力に直面したサンチェス・デ・ロサダ大統領は、すでに苦しい生活を強いられている中流階級に重くのしかかる厳しい所得税導入を2月中旬に発表した。抗議が全国で巻き起こったが、中でも国家警察隊が主導して抗議行動を起こした首都ラパスが一番激しかった。現在では「ブラックウエンズデー」として知られる2月12日、警察と市民達は町の中央広場で軍隊と一日中にらみ合いを続けた。その結果20名以上が殺され、そのほとんどが軍の狙撃兵によるものだった。殺された中には、ケガをした抗議参加者の手当てに向かった看護師1人も含まれる。

サンチェス・デ・ロサダが現在どれ程信頼されているにせよ(彼は得票率わずか22%で当選した)、彼の負けだった。崖っぷちに立たされた大統領は、その地位を必死に守るため、閣僚すべてを解任し、IMFへの不服従を誓い、しかも彼の長い政治活動の旗印であった民営化経済寄りの政策を見直す意欲ものぞかせた。

FTAAに反対して団結しているボリビア人達、特に若者がよく語るのは、未来の経済による支配、つまり人間や地球に関することは後回しにされ、物・ドル・まやかしの価値観が世界でうまく流通するように画策された奴隷状態についてである。

FTAAに対する抵抗は、単に国際貿易協定に限定されたものではなくもっと奥深いものだ。それは、国民の真の魂を守るための闘いの様相を呈してきた。世界でも最も慎み深い人々を前に、経済指令のえせ製作者達は難局にぶつかったのかもしれない。

Jim Shultzは、ボリビアのコチャバンバにあるデモクラシーセンターの事務局長で、「Democracy Owners Manual」(Rutgers University Press)の著者でもある。



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