トピアを作り上げる Time for Topia
(New Internationalist No.357
June 2003 p16-17)

コロンビアの開拓者達が最も過酷な場所に作った世界に誇れるエコ集落、ガビオタス。その興味深い成り立ちを、モニカ・デル・ピラー・ウリベ・マリンが報告する。


午後5時。どこまでも緑の広がる熱帯の平原の彼方に太陽が沈もうとしている。サバンナの地にたたずむ生き物達がブロンズ像のように浮かび上がる。その風景にアクセントをつけている風車へ向け、鳥の群れが低木からあわただしく飛び立つ。

1万ヘクタールの寂しい痩せた土地に住む200人。その家々から蒸気が立ち上り、鳥達がそれを眺めている。黄昏時に夕食のにおいが漂う。テクノロジーによる汚染を避けて暮らす。その事を30年前に決意した人々がここに住んでいる。

川の近くで夕暮れになると舞う鳥達にちなみ、その土地はガビオタスと名付けられた。1965年、この不毛な地域を上空から見たコロンビア人活動家パウロ・ルガリはふと考えた、もしもこの土地で人間が生活できるのであれば、どんな所でも生活をしていくことは可能だろう。翌年ルガリは、科学者、アーティスト、農学者、技術者達を引き連れ、ボゴタから過酷な15時間の旅を経て、ベネズエラと国境を接するラノス・オリエンタレス(東部平原)へやって来た。

彼等は自ら生態系の中に身を置き、“どんな”コミュニティーの基本的なニーズにも対応できるようなオルタナティブな技術の開発を目指した。従って、快適で肥沃な土地等は念頭に無かった。

彼等の選択は間違っていなかった。最初にこの土地に来た開拓者のひとり、化学者のズベン・ゼラテリウスは、ラノスは「コロンビアの中でも最悪、まさに荒野だ」と述べた(1)。さらに、ラノス・オリエンタレスでは仕事を得る機会は少なく暴力も渦巻いていたが、それは現在コロンビアで続いている政府軍、民兵組織、左翼ゲリラ間の内戦によるものだけではなかった。

「白人」による数々の暴力を経験してきた先住民グァヒボの人々等地域の住民は、当然のことながら新しくやって来た人間達に疑いの目を向けた。


自然の研究室

ガビオタスの開拓者達は、日々の食べ物を得るためすぐに樹木を植え菜園造りを始めた。その川沿いの土はあまりにも栄養分が乏しかったため、茶葉肥料に浸したもみ殻で作った容器に、トマト、きゅうり、レタス、なすが植えられた。1970年代後半には、1kmにも及ぶ水耕栽培の温室が建てられた。そして、作物を地域の村と売買・交換するための組合も結成された。

現在多数のグァヒボ族や農民がガビオタスに住み、ガビオタスデザインのサバンナ自転車に乗って仕事に出かける。その集落には、整備された学校、太陽光と風力をエネルギー源とする病院等町にも劣らない施設があり、日本の建築業界誌は、世界で最も重要な40施設のひとつに、その病院を挙げている。患者は、敷地内に植えられている趣味の良い樹木に和まされ、温室で栽培される250にも上る熱帯の薬草による治療も受けることができる。この自然の研究室とも言うべきものは南米でもめずらしい。そして病棟には、通常の病院ベッドと先住民族のハンモックが交互に並ぶ。

ガビオタスには、この他にも共同キッチン、スイミングプール、集会場、馬小屋の他、様々な動物の飼育場もあるが、犬だけは禁じられている。動物のし尿は肥料として使われ、家畜が出すメタンガスは収集され燃料として使われる。ほとんどの人々は自転車を使用し、自動車はバイオガスを燃料とするものが使われている。

このガビオタスの主な電力源はサバンナを渡る風だ。この荒野に最適な風車を見つけるまでに58種類の風車が試用・テストされ、その結果ガビオタスの特徴である巨大な「ひまわり達」が出現した。もともとこれはガビオタスで発明された風車であったが、特許取得はしない事にしていたため、今では何千もの風車が中南米に広まった。

さらに、バイオガス発電機、太陽光圧力鍋、太陽光やかん等もガビオタスで発明されたものだ。これらも市場に出て、コロンビア国内で販売されている。

当初、水源から水を汲み上げるには多くの手間がかかっていた。しかしガビオタスの発明者達は、水源近くの公園で子供達が遊ぶブランコやシーソーを動力源とする軽量水圧ポンプを開発し、水汲みの手間も省けるようになった。現在、コロンビア国内の700近くの村がこのポンプを使用している。

さらにまた、加熱殺菌された飲料水を大型の太陽光システムによって作っている。現在ガビオタスは、コロンビアの多数の村に飲料水を供給している。


困難を乗り越えて

だが、最も偉大な業績は、森林と農業の分野にあるのではないだろうか。

1980年代の終わり、ガビオタスには問題が持ち上がっていた。コロンビア政府が自由貿易を推進し、市場には安い輸入食料があふれたため、地域の農民達は農作物をあきらめコカ栽培にシフトせざるを得なかった。

ガビオタス開拓者達は、農民達が生計を立てていけるように、ラノスの厳しい土壌でも栽培できる植物を探した。彼等は偶然、カリブ産の松の存在を知った。その松の苗木は、根が土に埋まっていなくてもコケに覆われていれば育つというものだった。そしてその松の松脂から抽出されるテレピン油からは、塗料、化粧品、医薬品、接着剤を作ることができる。だが今までコロンビアは、樹脂輸入に年間400万ドルを費やしていた。この計画を実現するため、ルガリは日本政府からタネ購入資金の支援を受けた。

およそ8千ヘクタールが植林され、その面積は増え続けていった。松の森は育ち、鳥によって運ばれて来た植物のタネに日陰を与える。そして、熱帯林自体はもとより、そこに住む鹿、アリクイ、カピバラ、鷹も戻り始めた。

樹木から採取した松脂がベースとなった環境にやさしいテレピン油は、輸入石油ベースの製品に取って代わった。その松脂精製のために建設された汚染物質を出さない工場は、1997年度国連世界ゼロエミッション賞に輝いた。

オルタナティブな生活を探るこの試みが証明したことは、ほとんどゼロに近い排出量でも発展は可能であるということだ。ガビオタスはいまだに電力の自給を保ち、食料もそのほとんどを自給し、銀行や資金提供者への依存は最小限に保たれている。そして何にもまして、ガビオタスは消え去ることなく存在しているのだ。

ルガリは、ガビオタスは「ユートピア」ではなかったのかと聞かれ、次の様に答えた。「ユートピアではない。トピアだ。ユートピアはどこにも存在しないという意味、空想上の土地だ。しかしガビオタスは実際に存在しているではないか」(2)

Monica del Pilar Uribe Marín
モニカ・デル・ピラー・ウリベ・マリンは、環境問題を専門とするコロンビアのジャーナリスト。



参考
http://www.friendsofgaviotas.org
http://www.zeri.org

出典
1 Gila Z Reckess, Environmental News Network, 23 March 2000.
2 Alan Weisman, Los Angeles Times, 25 September 1994. ガビオタスについては、彼の著書Gaviotas: a village to reinvent the world (Chelsea Green, 1998)に詳しい。邦訳はこちら。

『奇跡のエコ集落ガビオタス』(早川書房)


――現代社会の問題点――

農業全体を見ると、近代的手法(地球温暖化の主な原因のひとつ)をとる大企業による農業が増え、徐々に勢いを増している。全世界でみると、農業が地球温暖化ガス排出に占める割合は8%である。

*土壌の荒廃: 集中的な耕作や保全の欠如は、土中の炭素が分解し、大気中へのCO2放出につながる。

*肥料の悪影響: 窒素ベースの肥料は、地球温暖化効果がCO2の310倍もある一酸化二窒素(亜酸化窒素)を大気中に放出する。

*家畜: 農業から排出される温室効果ガスのほとんどは、家畜から排出されるものだ。家畜等の動物は、食物消化時や排泄時にメタンガスを放出する。

*肉食: 食用肉を生産するためには、最低でも穀物・野菜・果物生産の20倍の原材料を必要とする。

*燃料の大量消費: 軽油は、農耕機械の燃料として使われるだけでなく、世界市場へ作物を長距離輸送するためにも使われ、さらなるCO2排出を生む。

*森林伐採: 地域の商業林が一度にすべて伐採されると、その地域の森を再生するには長い年月がかかる。こうなると土壌は荒れ、森に蓄えられていた炭素がCO2として大気に排出されてしまう。過去50年で世界の熱帯雨林の半分が伐採され、これによる温暖化ガス排出は全体の12%を占める。

*植林: 豊かな国が自国のCO2排出をオフセット(相殺)するため、資金を出して植林行うプロジェクトが開発途上国で行われている。ウガンダとエクアドルでは、植林企業への便宜が図られ、コミュニティーが強制的に立ち退かされるという状況がすでに起こっている。さらには、たとえCO2排出量が増えても森林が増えればそれを相殺でき、温暖化を本当に防ぐことができるのかどうか、科学的見地から言っても疑問が残る。もしかすると、森林火災の増加を招いただけだったなどということにもなりかねない。

――解決へのアクション――

*土壌保全の実践: 土を掘り返さず、まったく耕さないか表土を少し起こす位にしておけば、生物学的にも深くまで肥沃な土ができる。また他にも、等高線に沿って木を植えたり、湖や池に雨水を貯留したりすることによって土壌の保全を図る方法もある。連作を止め、植える作物の種類を変えると自然に土は肥沃になる。

*有機栽培にする: 有機農業は、自然の生物多様性に配慮しながら土中に炭素をたくわえる。昆虫はお互いに抑制し合いながら豊かな生態系を育む。

*窒素肥料を使わない: その代わりに有機肥料を使う。土壌テストを行なえば、本当に窒素肥料が必要かどうかは分かる。

*家畜の糞尿を肥料にする: 家畜の糞尿が水中等酸素の無い所で腐敗するとメタンが発生する。これを単に大気に放出させてしまうより、収集して建物の暖房等を行うバイオガスとして使ったほうが良い。有酸素の環境では、コンポスト等すぐに畑にまくことのできるより害の少ない乾燥肥料を作ることが可能だ。

*家畜からのメタンガス排出量を削減: 牛・豚・羊・水牛の胃で起こる発酵は、農業で排出されるメタンガスのうち43%を占める。家畜に与える飼料の栄養バランスや品質を改善することにより、排出量削減は可能だ。

*マイエネルギーを作る: 風が強い地域の農民、例えばカナダ大平原の農民は、風車1台につき年間1,500ドルの収入を得て自然エネルギーの発電を行っている。それが農作業の支障になることもない。デンマークの農民は、独自の風力発電組合を作り、もっと多くの収入を得ている。太陽光による乾燥機は、ドライフルーツ、野菜、穀物、ハーブの生産に使われている。低品質の穀物や木の実の殻は、他の農業廃棄物と一緒に、乗り物用エタノール燃料の製造に使われる。

*肉食をやめる: 消費者としては、食べる肉の量を減らすことができる。そうすることで、農業の中でも最大の温暖化ガス排出源を減らすことにつながる。

*有機食品を買う: 成長途中にある持続可能な農業のための市場を支え、産業的な農業ではなく有機農業への補助金を与えるキャンペーンを支援する。

*地産地消: 地域の小規模農家を支援しアグリビジネスに対抗することによって、輸送を減らしてCO2削減に貢献する。

*持続可能な林業: すべての木を切り倒す皆伐ではなく、木々を選んで伐採し、森を残すようにする。

*木材を選ぶ: 消費者としてできることは、エコ認証のついている木材を購入し、大規模商業伐採への政府補助金に反対するキャンペーンを支援する。

参考
Stormy Weather by Guy Dauncey with Patrick Mazza (New Society Publishers 2001)

 



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