石油あふるる世界

And the oil runneth over....
(New Internationalist No.361
October 2003 p22-23)

 

吹き出す石油、それはまるで地球が血を流しているようだ。最近オイルウォッチ[訳注1]が発表した写真は、その様子を物語る。ここにその写真と共に紹介するのは、NIがまとめた各国の現状である(写真はNI本誌p22-23を参照)。

 

●ナイジェリア

ナイジェリアは、2002年の米国の原油輸入先第5位、そして西ヨーロッパの主要輸入先でもあった。1976年から1996年にかけて、250万バレルの石油がニジェールデルタの土地と運河に流出した。その量は、エクソン・バルディーズ号の惨事で流れ出した量の10倍近くにもなる(1)。その主な原因となっているのが、古くさび付いた石油パイプラインネットワークである。これは再三にわたり爆発・破裂し、周辺住民達の呼吸障害、皮膚や消化器疾患、さらには腫瘍やがんの原因ともなった。石油流出よって、世界第3位の規模を誇るニジェールデルタのマングローブ林は被害を受けた。そして流出が原因となって、地元の人々の生活を支えている漁業や農業からの収穫も激減した。しかも石油採掘の副産物であるガスの75%が燃やされ、放出された二酸化炭素や腐ったような臭いのメタンによって大気は汚染された。また、違法な燃料の汲み上げが行われ、それが原因となった爆発による死者も出ている。1998年10月に起こった爆発では、千人以上の死者を出した(2)。

シェブロン・テキサコ社、エクソンモービル社、トータル・フィン・エルフ社、ENI/Agip社といった石油会社が、この国で操業している。シェル社が運営するこの国最大の共同企業体は、ナイジェリアの原油生産の約半分を担っている。今年3月ナイジェリアの衆議院は、シェルナイジェリア社に対して、15億ドルをバイエルサ県のイジョー族に支払うように命じた。ここでの石油流出は、1956年からコミュニティを苦しめてきた。1993〜94年にかけて前例が無いほど繰り返された石油流出事故が原因となって、接触伝染性の病気が広まり、1,400人以上の人々が死んだ。

●エクアドル

この国は、ラテンアメリカの中でも最大の石油輸出国のひとつである。エクアドルの石油埋蔵地は、ほとんどが東アマゾン地方にある。30年に渡る石油の採掘により、2,000平方km以上の原生林が失われた。アマゾンの先住民族のうちTetete族は絶滅し、あと4つの民族(Siona、the Secoya、Cofan、Huaorani)が存亡の危機に立たされている。30年近く破損の続くトランスエクアドルパイプライン(SOTE)からは、1,700万ガロンもの石油がエクアドルのアマゾンに流出した(3)。現在建設中で2番目に主要なパイプライン、OCPパイプラインは、503kmの長さを誇りカナダのエンカナ社率いる企業体(米国のオクシデンタル社、スペインのレプソル-YPF社、イタリアのAGIP社を含む)により建設・運営されている。アマゾンの現在稼動中の鉱区と新しい鉱区からの重質原油を、アンデスを越えて太平洋の港まで運ぶこのパイプラインは、原油生産量と輸送量を現在の2倍にすることを目指したものだ。当初から環境保護活動家は、ニンド・ナンビロ・クラウド森林保護区――450種の鳥類が住み、3,000種の蘭が自生する――を含む11の環境保護区が、この計画により危機にさらされるとしてプロジェクトには反対してきた。2002年9月に世界銀行環境部門の元責任者が作成した報告書には、OCPパイプラインは「世界銀行グループの社会・環境セーフガード政策から相当はずれ……」と記されている(4)。このパイプラインは、今年末までには稼動すると見られている。

詳しくは、Juan Pablo Barragan Amazon oil pipelines - pollution, corruption and poverty (March 2003)というビデオ参照。このビデオは、www.rainforestinfo.org.au/ocp/video.htmから入手可能。

●ロシアーサハリン

今年1月、ロシアはサウジアラビアに代わり石油採掘量世界一の座に就いた。エネルギー資源の乏しい日本の北45kmに位置する、新しい石油開発事業が進むロシアのサハリン島には、北海に匹敵する量の石油とガスが眠っている。この開発事業で採掘される石油の90%はアジアへ輸出される予定で、エクソンモービル社(事業主体企業2社のうちのひとつ)は、日本と中国へ石油を輸送する費用対効果の一番高い手段はパイプラインであると述べている(5)。だがこのパイプラインは、凍結する海を横断するため、その技術が試されることになるだろう。そのリスクを負わされるのは、世界でも有数の多様性を誇り、手付かずの状態が残る生態系である。その中には、ロシアの年間漁獲量の60%を占め、サハリンに住む70万人のうちの5万人が携わる漁業や、世界の中でも特に絶滅の恐れが高い西コククジラとセミクジラの夏の生息域も含まれる。海岸近くの掘削やパイプラインによる環境汚染により、Nirkhi族(3つある先住民族グループのひとつ)の生活に欠かすことの出来ない魚、鳥、動物の個体数の現象がすでに見られる(6)。

●ロシアー中国

今の所、ロシアの主なパイプラインはすべて国が所有しており、トランスネフト社が運営している。そのトランスネフト社の議決権付き株は、ロシア資産省が保有している。45,000kmにおよぶパイプラインの3分の1以上はすでに老朽化している。その結果1998年には、採掘された石油の7%程がパイプライン輸送中に失われている。西シベリアでは、多い時には年間35,000回も石油漏れが起き、300万〜1,000万トンもの石油を周辺地域に垂れ流している(7)。このような保守の状況を考えれば、ロシアと中国が発表した2,400kmにおよぶパイプライン建設への不安はつのるばかりだ。このパイプラインは、西シベリアの町アンガリスクから、中国北部にある中国最大の油田である大慶を結ぶものだ。この2005年に完成予定の25億ドルのプロジェクトにより、年間少なくとも2,000万トンの原油が輸送されることになるだろう(8)。計画中のパイプライン建設ルートは、国立公園内を横切ることになっているが、ロシアにおいてこれは違法なはずだ。さらにこのパイプラインは、バイカル湖南端に沿って曲がり、湖に流れ込む59もの川を横切る。南東シベリアにあるバイカル湖は、世界で最も古く深い淡水湖である。この湖は、世界の淡水(凍結していないもの)の20%を擁し、世界遺産にも登録されている。ある影響評価報告書は、パイプライン破断と湖への石油流入の可能性について「相当高い」と認めている。しかし、石油漏れに対する対策は講じられていない(9)。

●スーダン

1999年7月に主要なパイプラインのひとつが完成したことにより、スーダンの原油生産と輸出は過去3年の間に急増した。2001年のクリスチャン・エイド[訳注2]の報告によれば、企業は開発への障害を取り除くために多数の南部住民の殺害や立退きを共謀した。スーダン南部は、最大の反政府勢力であるスーダン人民解放軍が本拠地としている地域である。パイプライン建設中、ナイル川上流域の住民達を脅迫し、逃げ出すように仕向ける程、そのパイプラインは政府にとって非常に重要なものであった(10)。石油の採掘を守るため政府は「焦土」作戦を実行し、住民を追い立て村々を破壊した。農作物は破壊され人道援助物資の配給も許可されず、こうして飢餓が人々をその土地から追い払うことが出来たのだ。

スーダン南部のほとんどの人々や家畜が、ナイル川の水をそのまま利用しているにもかかわらず、政府はパイプラインからの石油流出について調査を行っていない。

 

1 World Watch Magazine, May/June 2003, citing a CIA study; Reuters, 15 August 2001.
2 Energy Information Administration (US), Nigeria Country Analysis Brief, March 2003.
3 Video by Ecuadorian activist filmmaker Juan Pablo Barragan, Amazon oil pipelines - pollution, corruption and poverty, (March 2003).
4 Energy Information Administration (US), Ecuador Country Analysis Brief, January 2003.
5 International Herald Tribune, 14 July 2003.
6 E Rosenthal ‘Conflicts over transnational oil and gas development off Sakhalin Island in the Russian far east: a David and Goliath tale' in L Zarsky ed, Human rights and the environment: conflicts and norms in a globalizing world, Earthscan, 2002.
7 ‘The Russian Arctic: on the threshold of catastrophe', Johnson’s Russia List, 4 April 2002.
8 The Moscow Times, 30 April 2003.
9 'Green tears over black gold', The Economist, 17 July 2003.
10 Christian Aid, The scorched earth: oil and war in Sudan, 2001.
11 J Switzer, Oil and violence in Sudan, International Institute for Sustainable Development, April 2002.

[訳注1] Oilwatch(http://www.oilwatch.org)は、熱帯地域の国で繰り広げられる石油企業の活動に反対するネットワーク団体。

[訳注2] Christian Aid(http://www.christian-aid.org.uk/)は、1945年に英国とアイルランドの教会の支援によって設立された国際協力NGO。New Internationalist Magazineの創刊に関わったNPOのひとつ。

 


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