マレーシアでほくそ笑むタバコ産業

Carve up
(New Internationalist No.369
July 2004 p16)


タバコが社会的に容認され、タバコ政策があいまいで一貫性のない国、マレーシア。そんな背景にも支えられ、マレーシアではタバコ企業が勢いづいている。その現状を、マリー・アスンタがレポートする。

「お父さんやお兄さんにタバコを買って来るように頼まれたら、君はどうする?」ペナン消費者協会(CAP)の村落地域教育官NV・サバロウは、しかめっ面をしながらひそひそ話をしている緊張気味の子どもたちの一団を見つめる。サバロウの周囲に集ったちょうど思春期前、まだ12歳にもならない子どもたちの恥じらうような忍び笑いから、このマレーシアの村では、一般的な健康被害情報を超えたタバコ教育の必要性が感じられる。喫煙の法的・社会的な側面にも取り組んでいかなければならない。

NV・サバロウは20年以上にわたり、マレーシア全土でタバコ規制キャンペーンに取り組んでいる。喫煙による問題はマレーシア中に蔓延しているため、サバロウはあらゆる年齢層や社会階級の人々に防止策を説いて回っているのだ。

未成年者にタバコを売ることは違法であるにもかかわらず、子どもでも簡単にタバコを手に入れられる。田舎の商店は、タバコ以外にも幅広くいろいろな食料雑貨を扱い、店主も地域の家族になじみの存在である。子どもは大人の使いで買い物に来るため、その子どもにタバコを売るのを断れば、ひいきにしてくれる大人に対する拒絶と受け取られてしまう。

町では、一人の店主が10代の子どもに対してタバコ販売を断ったとしても、ほんの数メートル先の店ではそれほど厳しくないこともあるだろう。法規制がゆるい国で、商売の機会をみすみす逃す人はいないのではないだろう。

この国では、喫煙は定着して広まっており、成人男性の約半数がタバコを吸う。国中の喫茶店の壁やレジには、そこら中にタバコ広告が貼られている。多くの男性事務職や肉体労働者の一日は、街頭の屋台のロティ・チャナイ(パンケーキ)か、ナシ・レマ(ココナッツミルクで炊いたご飯)といった安い朝食と一服のタバコで始まる。

田舎のコミュニティーでは、村中がこぞって準備や祝いに参加するクンドゥリ(共食儀礼)の手伝いのお礼として、10代の若者に対してもタバコを配るのが習慣である。

タバコが社会に深く浸透している環境では、喫煙するなと子どもを説き伏せること自体虚ろに響く。そんなにタバコが体に悪いのなら、どうして政府はタバコを禁止しないのですか? なぜタバコ栽培を奨励するのですか? 両親や先生や地域の指導者が、いまだにタバコを吸っているのはなぜですか? 子どもはよくこのように問いかけてくる。

アジアの他の国々と同様に、マレーシアでは社会的なタブーにより女性の喫煙率は低いままだ。マレーシア女性の喫煙率は3.5%にすぎないが、10代の女性の喫煙率は4.8%から8%に増加した。この上昇傾向は、魅惑的な女性というイメージとタバコとを結びつける広告の影響によるものである。

しかし、健康を擁護する人たちの前に立ちはだかる最大の壁は、その務めを果たすよう政治家たちを説得することだ。タバコ規制法は1994年に施行され、喫煙が蔓延している実状をマレーシア政府は把握している。年間に1万人の命を奪う喫煙は、死亡原因の第1位なのだ。

ところが、まぶしいばかりの法の抜け穴が、特に広告や販売促進面で存在する。そのおかげで3大タバコ多国籍企業であるブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)社、フィリップ・モリス(アルトリア)社、日本たばこ産業株式会社(JTI)は、都合の良い環境の下ビジネスを行っている。

テレビとラジオでのタバコ広告は禁じられているものの、スポーツイベント、ポップコンサート、パーティー、「アドベンチャーイベント」を主催することはこれらの企業にも認められているため、世界の間接広告の中心地としてマレーシアは評判が悪い。

昨年10月、JTIのタバコブランド、セーラムは、政府観光局の協賛で、クレイブ・ディビットを目玉にしたポップコンサートをペナンで主催した。まさにサバロウの言う「ちぐはぐな状態」と言えるだろう。

マレーシアのトップ指導者が承認して3月に行われているマレーシアF1グランプリレースは、政府の省庁間の連携不足を示す良い例だ。このグランプリでは、タバコ広告の禁止は解かれている。BATとフィリップ・モリスは、レース期間中に街頭パーティーなどのイベントを主催する許可を得た。小学生から大学生まで、参加が積極的に呼びかけられ、安いチケットを提供するなどして座席の20%が割り当てられた。

皮肉なことに、子どもが喫煙に「ノー」と言えるよう支援する公共教育キャンペーンが、この1ヶ月前に大金を投じて首相によって開始されたばかりであった。だが、キャンペーンを行っている人たちですら、これは本当に効果があるのかと疑問視し、規制強化の必要性から目をそらせる作戦ではないかと考えている。

マレーシアは、アジアの中では小さなタバコ市場に過ぎないが、3大タバコ企業は3社ともマレーシアに工場を持ち、アジア地域の戦略的拠点としている。さらに、インドネシアのクレテック(クローブタバコ)産業や、地元ブランドがタバコを独占支配しているタイのような地域とは違い、マレーシアには地元ブランドとの競争は存在しない。また、マレーシアは、国際ブランドの周辺国輸出に対し魅力ある税制優遇措置も与えている。

14.4億ドルのマレーシアのタバコ産業のうち、大半にあたる約10億ドルをBATが稼ぎ出している。生産量の約70%を国内市場で消費し、残りはベトナム、香港、中国、ブルネイ、その他の免税市場に輸出している。

クアラルンプールは、2005年11月に予定されている「新たなるタバコ市場」という貿易博覧会の主催地候補に挙がっている。この博覧会でタバコ企業は、世界のタバコ産業にとって将来的に最も重要な市場であるアジアでの市場開拓戦略を練るつもりなのだ。

アジアの喫煙家たちは、世界のタバコの約50%を消費している。世界のタバコ産業が「アジアは、タバコ消費が今なお毎年増え続けている最後の地域のひとつである」と述べるように、タバコ多国籍企業がよだれを垂らして喜ぶ十分な理由は存在するのだ。マレーシア市場は、BATの内部資料では守るべきドル箱と位置づけられている。法律でタバコ消費を厳しく規制しない限り、極めて有害な産業には何の変化も起こらないだろう。


マリー・アスンタ
シドニー大学の公衆衛生学部にて、タバコ産業に関する博士論文に取り組んでいる。さらに、世界保健機関の「タバコ規制枠組条約」に対するNGO支援をまとめる「タバコ規制枠組条約国際NGO同盟」の会長も務める。

訳: 松並敦子

 




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